&Y CONCEPT
新商品や新規事業の話をしていると、
「これは売れそうだ」
というところから話が始まることがあります。
取引先から要望がある。商社から商品化の相談がある。既存市場とは違うところで、自社の技術が使えそうだ。
どれも、新しいことを始めるきっかけとしては悪くありません。
ただ、実際に商品を作って販売するところまで経験すると、もう一つ先に考えておけばよかったことがあります。
それが、
「いくら売れれば、この事業は会社に利益を残せるのか」
ということです。
実際に、新しい商品を作ったものの、初期ロットすら十分に販売できないということがありました。
商品そのものを作ることはできています。
しかし、
「作れること」と「売れること」は別です。
さらに言えば、
「売れること」と「事業として利益が残ること」も別です。
ここを同じものとして考えてしまうと、商品完成後になって、
「結局、何個売れば元が取れるのか」
「営業にどれくらいお金を使えるのか」
「この市場規模で、本当に投資を回収できるのか」
という問題が出てきます。
今回、改めて数字を計算してみて感じたのは、商品開発には「ものづくり」だけでなく、かなり強い経営企画の視点が必要だということでした。
新商品の投資額というと、最初に思い浮かびやすいのは開発費や試作費です。
ただ、実際に市場へ参入するのであれば、それだけでは商品は売れません。
営業する人が必要です。
WebサイトやLPを作るかもしれません。
広告を出すかもしれません。
代理店や紹介者へ手数料を支払う場合もあります。
展示会へ出展することもあります。
そして、その活動を何か月、場合によっては何年も続ける必要があります。
つまり経営判断としては、
「商品を完成させるためのお金」ではなく、「市場へ参入して販売できる状態をつくるためのお金」まで見る必要があります。
私たちは今回、こうした費用を整理し直し、
開発費用+人件費+営業・広告などの販管費
までを含めて考えることにしました。
ここで、一つ整理しておきたいことがあります。
一般的な損益分岐点とは、売上高と費用が一致して利益がゼロになる売上水準のことです。
費用を固定費と変動費に分けると、
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
という形で考えることができます。J-Net21でも、損益分岐点を利益ゼロとなる売上規模として説明し、さらに目標利益を加えた必要売上高を計算する考え方が紹介されています。
一方、私たちが今回知りたかったのは、それだけではありません。
「毎月赤字にならない売上」ではなく、
これまでに投入した資金まで、いつ回収できるのか。
ここまで考える必要がありました。
そのため、今回の記事では通常の損益分岐点に加えて、初期投資を回収するために必要な利益を「投資回収ライン」として考えています。
ここからは、あくまで私たちが判断材料として置いた試算です。
業界標準でも、すべての企業に当てはまる数字でもありません。
例えば、
開発費+人件費+2年間の販売・営業活動費=3,000万〜9,000万円
程度必要になる新規事業を考えます。
営業については、営業人員2名と、Web広告、LP、紹介料などの広告宣伝費を想定しました。
この3,000万〜9,000万円を、一つの「新規参入に必要な投資額」と考えます。
仮にこれを5年間で回収するとします。
すると、
3,000万円 ÷ 5年 ÷ 12か月 = 月50万円
9,000万円 ÷ 5年 ÷ 12か月 = 月150万円
となります。
つまり、事業を続けるだけではなく投資まで5年間で回収するなら、
毎月50万〜150万円程度を、回収原資として残せる事業でなければならない
という見方ができます。
もちろん、実際には借入金利、税金、追加投資、3年目以降の人件費や広告費なども考える必要があります。
この数字だけで投資判断ができるわけではありません。
ただ、
「売れそう」
という感覚を、
「では毎月いくら利益が必要なのか」
という数字へ変えるには使えます。
次に考えたいのが、
その利益をどうやって作るのか
です。
単純化して、商品を販売したときに最終的に事業へ残る利益相当を30%と仮定します。
すると、月50万円を確保するためには約167万円、月150万円なら約500万円の月間売上が必要です。
年間では、およそ2,000万〜6,000万円です。
ここで初めて、
「この商品を年間何個売らなければならないのか」
を考えられるようになります。
例えば100万円の商品なら、単純計算では年間20〜60台。
10万円の商品なら年間200〜600個です。
すると今度は、
「うちの営業体制で、本当にその数量を販売できるのか」
という現実的な問いが出てきます。
中小企業診断士による新規事業の計画手法に関する研究でも、市場規模、製造原価、開発費、商品価格だけでなく、営業員数や営業活動量まで仮説として置き、最終的な損益分岐点到達まで検証していく考え方が示されています。
数字を計算する目的は、きれいな事業計画書を作ることではありません。
その数字を本当に実現できる活動量なのかを確認することにあると思います。
さらに、年間2,000万〜6,000万円を売る必要があるとして、その金額が市場全体のどの程度なのかも確認します。
例えば、新規参入する会社が最初から市場の10%、20%を取るという計画は、かなり強い前提になります。
そこで今回、一つの判断材料として、
市場全体の1%程度を獲得した場合でも成立するか
を考えることにしました。
年間売上2,000万〜6,000万円が市場の1%なら、市場全体では約20億〜60億円です。
つまり今回の前提では、
少なくとも数十億円程度の市場がなければ、新規参入後の投資回収がかなり厳しくなる可能性がある
ただし、これも「20億円未満なら参入してはいけない」という意味ではありません。
高利益率の商品もあります。
既存顧客へ販売でき、営業費をほとんど必要としない商品もあります。
継続課金によってLTVを高められるサービスもあります。
逆に、市場が100億円あっても、大手企業がほぼ占有していれば参入は難しいでしょう。
市場規模は答えではなく、
自分たちが置いている販売計画が現実的かを確認する材料の一つ
として見る方がよいと考えています。
以前は、新商品開発というと、
市場を調べる。アイデアを考える。試作品を作る。商品化する。販売する。
という順番を考えがちでした。
今は、その前に一度数字を置いた方がよいと考えています。
このあたりを仮でも置いてみます。
計算してみた結果、
「思ったより売らないといけない」
「その件数は営業2人では難しい」
「そもそも市場が小さい」
ということが分かれば、それも重要な成果です。
作ってから分かるより、はるかに負担が小さく済みます。
新規事業というと、アイデアを出して、挑戦することに注目が集まりがちです。
もちろん挑戦は必要です。
ただ、一度の新規事業で会社に大きな損失が出れば、その次の挑戦ができなくなることもあります。
だからこそ、
「面白そうだからやる」
だけではなく、
「会社として、どこまでなら失敗できるのか」
まで考えておきたいところです。
これは慎重になりすぎるという話ではありません。
挑戦を続けるために、一回の挑戦で致命傷を負わないようにする。
それも新規事業では大切だと考えています。
新商品開発では、デザイン会社、開発会社、製造会社、広告会社、コンサルタントなど、さまざまな外部企業と仕事をすることがあります。
それぞれの専門家から良い提案をもらうことはできます。
商品を作る会社は「作ること」。
広告会社は「広告を運用すること」。
営業会社は「営業活動をすること」。
それぞれに責任範囲があります。
最終的に、
この事業へ会社としていくら投じ、どこまでの損失を許容し、いつまでに何を達成するのか
を判断する責任は、経営側に残ります。
だからこそ外注する場合にも、
「相手に何を調べてもらうのか」
「自社で何を判断するのか」
を分けておいた方がよいと思います。
それでも、新商品が想定どおり売れないことはあります。
ただ、商品化まで行ったものには、別の使い道が残る場合があります。
例えば、商品そのものを販売するのではなく、
自社技術を見せるサンプルとして使う。
開発案件を獲得するための営業ツールとして使う。
試作・量産できることを伝える実績として使う。
そこから別の商品や受託開発へつなげる。
という方法です。
最初に考えた事業モデルでは成立しなかったとしても、作ったものまで無価値になるわけではありません。
ただし、それは「失敗しても大丈夫だから、とりあえず作ろう」という意味ではありません。
できれば作る前に考える。
難しいと分かれば、小さく試す。
それでも違ったら、早めに方向を変える。
その方が、次の挑戦に使えるお金と時間を残せます。
新しい商品やサービスのアイデアが出たとき、
「売れそうか」
を考えることは大切です。
ただ、それは事業を始めるきっかけに過ぎません。
本当に確認したいのは、
いくら投資し、何年間で回収し、そのために毎月いくら利益を残し、何件売らなければならないのか。
そして、
その販売数を実現できる市場と営業体制が、本当に存在するのか。
というところです。
今回、数字を計算し直してみて、新商品開発は「ものを作る仕事」であると同時に、「会社のお金をどこへ使うかを決める仕事」でもあると改めて感じました。
株式会社アンドワイコンセプトでも、新規事業や商品開発について、作ることを前提にせず、市場や顧客、販売方法、必要な投資まで整理しながら考えています。
アイデアを形にすることだけでなく、そもそも形にするべきかを考えることも、新商品開発の一部だと考えています。
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