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「かっこいい」だけでは量産できない。低価格帯でもブランド品質を死守した「CMF設計」と「工程の最適化」

店頭価格を抑えたい。でも、手に取った瞬間に「安いな」と思われたくない。製造の現場で責任を持つ方ほど、この板挟みを日々感じていると思います。さらに「デザイナーが入るとコストが上がる」という警戒も自然です。見栄えを追うほど、部品点数や手間が増え、最後は原価が破綻する……そんな経験があるほど、慎重になりますよね。

ただ、ここで一つ視点を変えると道が開けます。コストを増やさずに品質感を上げる鍵は、形状の奇抜さではなく“CMF(色・素材・仕上げ)”と“工程”をセットで設計することです。私は国内のインダストリアルデザイン団体に所属し、意匠だけでなく量産条件・加工条件と一緒に整理する立場から、現場目線でこの「両立」を扱ってきました。いわば、絵を描く前に原価表と工程表を開くタイプの進め方です。

では、なぜ「かっこいい」だけでは量産できないのでしょうか。理由はシンプルで、店頭で伝わる価値は“形”よりも“質感の総合点”で判断されるのに、コストは“工程の総量”で増えるからです。形状を凝ると、金型・加工・治具・検査・不良対応まで連鎖します。一方で、ユーザーが感じる「安っぽさ」は、光の反射、触ったときの抵抗感、端部の処理、色の沈み方、縫い目の密度といったCMFの要素で一気に出ます。つまり、工程を増やして形を盛るより、工程を減らしつつCMFで“見え方”を整えるほうが、費用対効果が高い場面が多いわけです。

CMFは「見た目」ではなく「原価を守る設計図」

CMFはデザインの飾りではなく、原価と品質感の橋渡しです。たとえば同じ形状でも、表面の粗さ、艶の有無、色の深み、触感の温度で「高そう」にも「チープ」にも見えます。ここで重要なのは、CMFを単独で決めないことです。材料単価だけでなく、加工歩留まり、段取り替え、検査基準、外観不良の再発率まで見て、現場で回る仕様に落とします。

コストダウンと見栄え向上を同時に起こす、二つの打ち手

今回のポイントである「縫製箇所の削減」と「生地の質感選定」は、まさに“工程とCMFの同時設計”の代表例です。

1)縫製箇所の削減=工程と不良の削減
縫製は、見えないコストが乗りやすい工程です。工数だけでなく、段取り・針替え・糸調整・検査・手直しが付いてきます。ここで「縫い目を減らす」方向に振ると、単純に作業時間が減り、不良率も下がりやすくなります。さらに、縫い目が少ないほど外観が“すっきり”して、意外と上質に見えることもあります。つまり、減らすほど良くなる余地があるんです。

2)質感選定=“安っぽさの原因”を潰す
低価格帯で起きがちなのは、素材のテカり、色の浅さ、端部の毛羽立ち、触ったときのぬめり感などが「安い印象」を作ってしまうことです。ここは素材そのものを高価にするのではなく、質感の方向性を定義して“外観の地雷”を避けるのが先です。たとえば、反射が強い素材は照明下でムラが目立ちやすいので、落ち着いた艶に寄せる。色が薄く見える場合は、染まり方よりも表面の微細な凹凸で陰影を作る。こうした選び方は、材料単価を跳ねさせずに見え方を改善しやすい領域です。

現場で使える「CMF×工程」進め方

ここからは、製造現場の方が関わりやすい形に落としてみます。CMF設計でコストと品質を両立するには、次の順番が噛み合うと失敗しにくいです。

①「高そうに見える要因」を分解して合意する

まず、ターゲットが“高品質”と感じる要因を言語化します。艶なのか、マットなのか、硬さなのか、柔らかさなのか。ここが曖昧だと、後工程で「なんか安っぽい」が発生して、結局やり直しになります。感覚の話に見えて、やり直し工数を減らすための前処理です。

②原価を動かす要因を先に洗い出す

次に、原価に効く要因を洗い出します。工程数、段取り替え回数、部材点数、検査負荷、外観基準の厳しさ、手直し難易度。ここを一覧にしておくと、見た目の改善を議論するときも「どこまでなら増やせるか」ではなく「増やさずに変えられるか」に発想が寄ります。

③“減らす工程”と“上げる質感”をペアで決める

最後に、工程削減と質感向上をペアで決めます。縫製を減らしたぶん、端部の処理で印象を整える。色の深みが出にくいなら、表面の表情で陰影を作る。こうして「工程は減る、見え方は上がる」という状態を狙います。ここまで来ると、デザインはコスト増の要因ではなく、コストを守るための設計行為になります。

まとめると、店頭価格を抑えながら安っぽさを消すには、見た目の装飾ではなく、CMFと工程を同じテーブルで扱うことが近道です。縫製箇所の削減でコストと不良を減らし、質感選定で“安っぽさの原因”を潰す。この二つを同時に進められると、低価格帯でもブランド品質を守りやすくなります。

そして結局のところ、真の製品開発は「原価を理解しているデザイナー」と「品質感を理解している現場」が同じ言葉で会話できるかにかかっています。デザインは、絵を描く作業ではなく、数字と工程の条件の中で“正しい価値”を成立させる設計です。もし今、コストと品質のジレンマで身動きが取りづらいなら、まずはCMFを“見た目の議題”から“量産の議題”へ引き上げてみませんか。そこから、現場が守りたい品質と、経営が守りたい原価が、同じ方向を向きやすくなります。